遠藤MAMEさま×マップによる、Xmasコラボ作品です。
小説のみはtreasureに置いていますので、邪魔なイラストなく楽しみたい方はそちらで!
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「色んなのが絡み合ってグチャグチャだ...」

ガレージにはグルグルとマフラーを巻いてしゃがみ込み、鉛筆を顎に当てる姿。

ストラップのない携帯には不便を強いられるが、代わりを買うのは我慢する。

そしていつもは長く浸からない湯に、のぼせるほど身を委ねた。

だから俺も...


Hand-made Gift


空っぽの腹に立ち込めるバターの香ばしい匂い。
リビングの窓が木枯らしでガタつき、ふと新聞から顔を上げた。
いま一日で最も高い位置にあるはずの太陽は、厚い雲で覆われ顔を見せていない。

その寒々しい光景にも関わらず、部屋の内に籠る俺はだいぶ薄着だ。
しかし小一時間後には、その体に上着を羽織らなくてはならないだろう。

「なぁ、そんなんじゃなくってさ。マジメに答えてくれよ」

先程からデンゼルは、台所で忙しく働くティファを追い掛け回している。

「あら、大真面目よ?
前にクラウドだけ描いてもらった時は、結構傷ついたんだから」

そして「マリンは二人とも描いてくれたのにね」と畳みかけた。

デンゼルはうっと詰まるが、すぐに「それは...」と観念する。

「ティファは女の人だから、変な顔に描いちゃいけないと思ったんだ...」

二人の会話を耳に挟みつつ、視線は部屋の隅に置かれながらも圧倒的な存在感を誇る鉢植えへと移る。
そこに吊り下げられた、ツルリと赤くきらめく丸い玉の一つをマリンはおかしそうにつつく。

「スカスカだね」

奮発して買った、今までで一番大きなツリー。
必要な飾りの数が見当もつかなかった俺達は、それを全て枝にかけた後、互いに顔を見合わせ大笑いした。
午後俺はフェンリルに乗り、つい先程四人で往復した道をもう一度行かなければならない。





今月に入り、近々子供達から受けるだろう質問に備え、俺とティファは共通の返答を用意した。

“手作りの何かが欲しい”

「「ちゃんとお小遣いは貯めてるから、遠慮しなくていいのに...」」

予想通り膨らむ小さな頬。

二人はちっともわかっていない。
彼らの手により生み出された何かは、貯金箱を砕いて買った無機質な物の数段、俺達には価値がある。





「ねぇ、クラウドには何にするの?」

先程の数倍はある包みを小脇に抱え帰ってきた俺に、ティファは微笑みだけで “お帰りなさい” をし、デンゼルに問う。

「あぁもう!!動いちゃダメだってば...」

慌てて鉛筆を置き、画用紙に消しゴムをこすらせた。

「バイクでも貰うかな」

すると手を止め、ゆっくりと恨めしい顔をよこす。

「...意地悪」



すかさず言葉を補う。

「俺も、描かれたのが欲しいんだ」





リビングにマリンの姿はなかった。
数を増やした飾りを前に、呼びに行こうかと思ったが、昨夜のティファとの会話を思い出し踏み止まる。

“絶対に内緒よ?”

ベッドに腰掛けタオルで頭を拭いていた俺に嬉しそうに口止めし、片手を軽く握りしめ隣に座った。

“昼間、マリンの机を拭いてたら見つけたの”

そっと開かれた手のひらには、青と赤の透明なビーズ。
そこで俺は忘れかけていた小さな約束を思い出す。

“なくなっちゃったの?”

カウンターに置かれた、何もついてない携帯に興味を向けるつぶらな瞳。
引っ張られるために生まれて来たような物だ。
数日前に紐が切れ何処かへと消えたストラップに、俺は何の未練もない。
返事を聞くと、キラキラと目を輝せマリンは一言いう。

“まだ新しいの、買っちゃダメだからね!”

これで俺の見て見ぬ振りは二つに増えた。
手の上のビーズを楽しそうに指で転がす目の前の恋人に、心の中で伝える。

“君からの贈り物も、気付いてないフリをするよ”





「わっ!びっくりした!」

先ほど風呂から上がり部屋のドアを開けた瞬間発せられた台詞と、ビクっと揺れる体。

「ごめん、すっかり集中しちゃってたみたい...
お風呂終わったの、ぜんぜん気付かなかった」

慌てて読んでいた雑誌を閉じ、傍(かたわ)らの袋にしまい込む。
だけど垣間見てしまった。
その雑誌からはみ出た、一本の毛糸を。





だから俺も考え抜く。
数少ないレパートリーの中を行ったり来たりして。

普段あまり気飾らないティファ。
確かに彼女にそんな物は必要ないが、こんな日くらいプレゼントしたいんだ。
けれど高価な物を買えば、値段に反比例するよう顔は曇るだろう。
だからと言って、安物なんかあげたくない。

普段は照れ臭くて絶対にしない事。
だけど年に一度の特別な日。
今こうしてバイクを走らせる間にも、休まず動いているだろう手。
俺が風呂に入っている僅かな時間さえ無駄にせずに...

だから頭を巡らせる。

ティファはシンプルな物を好む。
そして俺は、油断するとすぐまた頬にかかってしまうサラサラの髪を掛け直す時に...
君が笑う度に...
耳元で揺れるそれが好きなんだ。

繊細なシルバーのチェーンに幾つか石を付けただけのもの。
自信がなかったから、宝石だけは少し奮発した。
店員のサポートを受けつつも、何度も失敗したそれ。

だけど不器用な手で作られたそれを...
高価な物よりずっと見劣りするそれを...
きっと君は、何年経っても大切につけてくれるだろう。





「こんなに朝早くから、本当にお疲れ様」

裏口を開けると流れ込んできた身を裂く様な冷気に、寝巻きにカーディガンだけのティファは、両手に息を吹きかけ身震いする。
真っ白な息で互いの顔がぼやけた。

イヴを無理やり休みにした俺は、翌朝まだ薄暗いなか家を出る。
光のない景色とは裏腹に、足どりは軽かった。
唯一の心残りは、子供部屋の二つの寝顔が数時間後に枕元の包みを開き、そこに笑顔が弾ける瞬間を拝めない事か。

その部屋の壁に所狭しと並ぶ、五枚の大きな画用紙。

永遠に本来の機能を果たす事のない、青く透き通ったストラップが痛まないよう、慎重に携帯の体を探り当てる手。

首に巻き付いた、灰色の柔らかな温もり。

そして人差し指と中指を当てると、目の前の耳たぶで転げる小さな輝き...


これでまた、一年頑張れる。


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Minority Hour遠藤MAMEさんの素敵小説とのコラボが実現!わほ~☆
MAMEさんの書かれた小説をまず頂いて、そこからのイメージをイラストにさせてもらいました!イメージ崩してないといいけどドキドキ!
MAMEさん、素敵なクリスマスプレゼント、ありがとうございました♪