朝寝坊は3文の・・・
ピピッ。ピピッ。ピピッ。
「・・・んん~」
薄暗闇の中、鳴り始めた機械音にエアリスが寝返りを打った。
ティファは眠気に顔をしかめながら、アラームに手を伸ばしスイッチを切った。
「んー・・・・・・」
くしゃくしゃの髪のまま、ティファがベットで伸びをした。
「・・・もう朝ぁ?」
エアリスが不満げに呟いた。
「うん、もう5時半。起きよ、エアリス」
「も~う。クラウドったら、最近、早起きさせ過ぎだよね・・・」
確かに、近頃のクラウドは焦りを感じているようで、朝早くから夜遅くまで移動する毎日が続いている。
「早く追いつかなきゃって思ってるんだろうね。先に顔洗うよ?」
「ど~ぞ」
二人はてきぱきと朝仕度を終わらせ、ホテルのロビーに向かった。
ロビーへ降りる階段にさしかかったところで、元気なナナキの声が聞こえてきた。
「おはよう、エアリス、ティファ!」
「おはよ、ナナキ」
エアリスがナナキの頭を撫でてやると、ナナキは嬉しそうに尻尾を振った。
「あら、ユフィは?」
ナナキと同室のはずのユフィの姿が見えないことに気づいたティファが辺りを見回した。
「ユフィは遅刻だよ。今、歯磨いてる」
「ふ~ん。ま、ユフィはいても話聞いてないから、ね」
そうエアリスが笑うと同時に、6時を知らせる短いチャイムが鳴った。
「あ、集合時間。行こ!」
ロビーへ降りていくと、見慣れたいつものメンバーが揃っていた。が、一人足りない。
「あれ、クラウドは?」
いち早く気づいたエアリスが言うと、ケット・シーが振り向いて答えた。
「まだなんですわ~。最近のクラウドさんにしては珍しいですな」
メンバーは10分待つことに決めたが、10分過ぎてもクラウドがやってくる気配は一向にない。
その間にユフィが来たが、クラウドの遅刻を知ると「なんだよ!もっと寝とけばよかった」とぶーぶー文句を言った。
今回の宿泊は、一人部屋が3室とれたためジャンケン争奪戦の末、クラウド、バレット、ヴィンセントの3人が優雅な一人部屋を獲得していた。
そのため、今朝クラウドには起こしてくれる人がいなかったのが原因だろう。
どうやらクラウドは、久々の一人部屋でぐっすり寝てしまい起きられなかったらしい。
「もう、人のこと早く起こしといて!わたし、見てくる」
エアリスが階段に向かった。と、そのとたん、エアリスが絨毯に足をひっかけ派手に転倒した。
「きゃあ!」
「わっ、大丈夫!?」
ティファが駆け寄ると、エアリスの抱えた膝が擦り剥けていた。
「痛~い!血が出ちゃった」
「・・・消毒薬をとってきてやろう」
意外と気がきくようで、そう言うとヴィンセントは姿を消した。
「しょうがねぇな。ティファ、あいつを起こしてきてくれ」
バレットがティファに頼んだ。
「うん、わかった。大丈夫、エアリス?」
ティファがエアリスを覗き込むと、エアリスはチロリと舌を出した。
「ん。もったいないことしちゃった」
「・・・・・・?」
不思議そうな顔をするティファを、エアリスがじれったそうに押しやった。
「も~、わかってるくせに!早く行ってきて」
「う、うん。えーと、クラウドの部屋、806番だったよね?」
バレットに確認すると、ティファは階段を上がり始めた。
部屋に向かう廊下を歩いているうちに、なんだか胸が高鳴ってきた。
(そういえば、クラウド起こしにいくのなんて久しぶり)
ティファは寝起きのぼんやりしたクラウドを思い出して、微笑んだ。
「・・・あ」
やっと気づいた。エアリスの言っていた「もったいない」はこのことなのだ。
(・・・・・・そっか。エアリス、ごめんね)
だが、寝起きのクラウドを独り占めできることが素直に嬉しかった。
806号室の前にはすぐに着いた。
「・・・・・・」
中から音が聞こえないか耳を澄ましてみるが、物音ひとつ聞こえない。
やはり眠っているようだ。
ノックをしようと手を上げるが、思い留まるとティファは近くのトイレに駆け込んだ。
鏡の前で前髪を整え、服装の乱れがないかあらゆる角度からチェックする。
スカートをぐいと下に引っ張り、もう一度前髪を整えた。
「・・・こんなとこ、誰かに見られたら恥ずかしいよね」
ほんの少し頬が火照るのを感じながら、いそいそと廊下に出て再びクラウドの部屋の前に立った。
コンコン。
・・・・・・・・・返事なし。
コンコン!
次は少し強めにノックをしてみる。
数秒後、鈍い足音が聞こえた気がした。
突然、目の前のドアが開いた。
「・・・はい・・・」
眩しそうに顔をしかめたクラウドが顔を出した。
ティファを見た途端、「あ・・・」と言わんばかりに驚いた顔をしたクラウドだったが、ティファの方もそれと同じように驚き、
言うつもりだった「おはよう」の一言が一瞬喉にひっかかってしまった。
クラウドが上着を着ていなかったからだ。
「・・・お、おはよう、クラウド」
「あ、ああ、おはよう。一体どうしたんだ、ティファ」
乱れた金髪を押さえつけながら、クラウドがそんなことを言う。
ティファは首を傾げてみせた。
「寝惚けてるの?もう6時過ぎよ」
初めて見るクラウドの裸の上半身に、嫌でも胸が鳴ってしまう。
顔の火照りを感じて焦ったティファは、クラウドに背を向けた。
「もうみんな集まってるから、早くしてね」
「ちょっと待て、ティファ」
クラウドが立ち去ろうとするティファの手首を掴んだ。
「な、なに」
自分でもおかしいくらい、ドギマギした声が出てしまう。
そんなティファには気づかず、クラウドは何やら考え込んでいる。
「どうしたの?」
「おかしいな・・・。なんでティファがここにいるんだ?だいたい、みんなって何だ」
「・・・・・・・・・はぁ?」
どうやら完璧に寝惚けているらしい。
「なんでって・・・・ここ一週間くらい全員かたまって移動してるじゃない。だから毎日泊まるところも一緒で・・・」
「・・・そうだっけ?」
クラウドが不審気に顔をしかめる。
「昨日、3つに別れて行動することになったろ。合流は明後日のはずだ。
俺のパーティがバレットとシドになって、オヤジだらけかよ!って思ったばっかりな気が・・・」
クラウドが混乱しているように頭をがしがしと掻いた。
「ぶっ・・・!」
ティファが吹きだした。
「あはははは!!クラウド、寝惚けすぎ!夢よ?それ。あははは!」
腹を抱えて笑い出したティファを、クラウドはビックリした様子でみつめた。
「え・・・夢?そうなのか?」
戸惑いながらも、クラウドもティファにつられてニヤけ出してしまう。
「ふふふ・・・おかしいっ!くふふふ・・・」
クラウドの寝惚けぶりと夢の内容のどちらにかはわからないが、どうやらツボにはまったらしいティファは身悶えしながら笑い続けた。
「そんなに笑うことないだろ」
そう言いながらも、ティファが笑っていることが嬉しいようでクラウドも笑ってしまっている。
「んふっ・・・・・・ご、ごめん」
ティファが涙を指先で拭きとっているとき、他の宿泊客が廊下の向こうから歩いてきた。
「あ、俺、こんな格好だから・・・とりあえず中に入れ」
「え?」
クラウドがティファの腕を引いて部屋に引きずり込み、ドアを閉めた。
ドアを閉めてから目を合わせたとたん、先程の笑いは吹き飛び、ティファの心臓は一つ大きく跳ねた。
突然部屋に二人きりの状況。しかもクラウドは半裸である。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
雰囲気が一転したことをクラウドも感じ取り、慌ててサッと一歩ティファから離れた。
「勘違いするな、大丈夫だ。別に何かしようとして部屋に入れたわけじゃないからな」
「わ、わかってるわよ、そんなこと。とりあえず、服着れば?」
ティファも動揺を隠せずに、たまらずに背を向けてしまう。
「ああ、そうだな」
椅子に掛けてあったタートルネックに手を伸ばしたところで、クラウドは手を止めた。
「あ・・・そういえば俺、昨日風呂入ってないな」
ティファが振り向くと、クラウドが続けた。
「風呂に入ろうと思って服脱いだところで眠気に襲われて、そのまま寝た気が・・・する」
「・・・じゃあ、今から入るの?」
「ああ、そうしたいな」
二人は無言でみつめあった。
「・・・・・・・・・?一緒に入るか?」
「じゃあ、7時集合に変更ってみんなに伝えるね」
クラウドを無視してティファがドアを開けた。
「・・・・・・・・・ああ」
心なし寂しげなクラウドの返事を背に受けながらティファは廊下に出た。
後ろ手にドアを閉めてから歩き出したティファは、口元が緩んでくるのを止められなかった。
(クラウドがあんな冗談言うなんて・・・)
嬉しそうに少し頬を染めたティファは、自分の反応が冷たかったかなと思う反面、うまく無視できたことを喜んでいた。
(だって、動揺しちゃったらくやしいものね)
ティファは足取り軽くロビーに向かった。
「ティ~ファ~!なんかあったでしょ!」
メンバーに集合時間変更の旨を伝え、一時解散になるとエアリスが詰め寄ってきた。
「え?え?なんで!?」
「ほっぺが赤―い!!」
エアリスはそう言ってティファの両頬をむにむに掴んだ。
「ええー!ホント!?」
ビックリしてティファが目を丸くする。
「それになんだかニヤけちゃって!何があったの!?言いなさい!」
自然に振舞っていたつもりなのに、とティファは驚いた。それにしても、エアリスの鋭さは流石である。
「クラウドが寝惚けてて、おかしかっただけ!」
ティファは焦った。なぜか益々頬が熱くなるのを感じ、それにまた焦った。
「じゃあなんでそんな赤くなるの~!?」
「うう・・・ん、しいて言えば、クラウドが冗談で、えーと、一緒にお風呂入るかって言ったから・・・すごく寝惚けて。変よね、アハハ」
エアリスが、信じられないといった顔で唖然とティファをみつめた。
「・・・ちょ、ちょっとエアリス!冗談でよ、冗談。しかも寝惚けて。ええー!なにをそんなに固まってるのっ!?」
エアリスの反応に、ティファは必要以上に焦った。
「・・・わかった。ほんとはそれだけじゃないんでしょ。そんなに赤くなるってことは・・・
寝惚けたクラウドに、服、脱がされそうになったんじゃない!?わたし殴ってきてあげる!」
「えーーー!?なんでそうなるの!?」
エアリスの勝手な想像の暴走に、ティファはぶんぶん手を振った。
「違うってば!」
「あのクラウドがそんな冗談、意味なく言うわけないでしょ~っ!」
「だから、寝惚けてって言ってるでしょ!」
二人の乙女がきゃーきゃー騒いでいるとき、当のクラウドはシャワーを浴びながら、ティファに嫌われやしなかったかと不安に思っていた。
「・・・だって、無視されたもんな」
その日の午後、ティファに話しかけるチャンスを得たクラウドは、
「朝のことは冗談だから、気に触ったならごめん」とわざわざ謝りに来て、再びティファの笑いをとったそうな。
FIN
むかーし、小説をすこーしだけ書いたよな、と思い出してメモリーカードの中を探したら、これがありました。
ACが出ることすら想像もしてなかった頃です。
懐かしい・・・軽くていーわ~(笑)
ん?コレが処女作になるのかな。世に出てないから違うのかな。
7って、まぁここまでじゃないけどコミカルな要素もたくさんありましたよね。そんな本編大好きでした。
クラウドだってちょっとおちゃめだったじゃないですか。何で今あんなに暗いのよ(笑)
ユフィに酔わないための秘訣を伝授したり、わりとよくしゃべる明るいクラウドも好きです。
エアリスってみんなの前でもオープンにクラウドアタックしていたから、こんな風に
ドタバタ三角関係な感じもいいじゃない。
ティファは白状しきれないけど、エアリスは全てわかってる、みたいな。
もうひとつ昔の小説があって、クラティの媚薬ものでした(笑)
でもエロスでなくギャグです。
サイト持ってない頃に書いて、クラティ交流サイト様で仲良くなった友達にプレゼントして
サイトに載せてもらっていたので、読んだことがある方もいるかも。
くだらないけど、次回手直ししてアップします。
ほんとくだらないんですけど、ね(苦笑)
↓管理人のヤル気が出ます↓