Distance

いつからだろう。

いつから、わたしはクラウドに恋しているんだっけ。

 

夕刻になっても暖かで湿っぽいコスタ・デル・ソルの風を受けながら、ビーチを見渡せる土手に座りティファはぼんやりと考えていた。
夕日を受けて金に光る海を背景に何組かの恋人達が浜辺を歩いている。
手を繋いで、幸せそうに。
恋人達が微笑み合うのを見て、先程の光景が脳裏に蘇る。

少し前を並んで歩いていたクラウドとエアリス。ふと一歩前に出て、クラウドの顔を覗き込みながら何かを言うエアリス。
何を言ったのかは聞こえなかったけれど、肩を竦めたクラウドにエアリスが花のように笑ったとき、クラウドの横顔が見えた。
柔らかく笑っていた。

・・・ズキン。

明らかに痛む胸。
エアリスと出会ってから、何度この光景を見たんだろう。クラウドがエアリスに向かって微笑むのはもう珍しいことではないのに、何度見ても慣れることがない。
見かける度に、胸の奥が痛む。

エアリスに出会い、この胸の痛みを感じることに気づいてから、ますますクラウドを意識するようになってしまった。
いつの間にこんなに好きになってしまったんだろう。

初めは、アバランチの誰にも見せない柔らかい表情をわたしにだけ向けてくれることに気づいたときは嬉しかったけれど、それはきっと幼馴染だからと冷静に考えていた。

でもその微笑みがエアリスに向けられたのを見たとき、独り占めしていたものを持っていかれてしまったような喪失感と寂しさを感じてしまったのだ。

 

 

だんだん地平線に近づき色を濃くする太陽を目を細めて見つめた。

バカだな・・・わたし。
自嘲に小さく笑う。

そして、先程まで考えていたことに意識を戻す。

ええと、ニブルヘイムにいたときは・・・?
給水塔に呼び出されてから、他の村を出て行った男の子達よりも気になっていたのは確かだけれど、好き、だった?
あの時の自分が幼すぎてわからない。

セフィロス達が村に調査に訪れた日、村の入り口でクラウドが来るか座って待っていたときは?
ドキドキしていたけれど、好き、だったのかな?
わからない。

再会してから、随分逞しくなったクラウドの冷静沈着な物言いや振る舞い、だけどわたしにだけ親しみのある話し方をしてくれたり、優しく笑ってくれたり。
花をプレゼントしてくれたり。
女装までしてドン・コルネオの館に助けに来てくれたり。

気づいたら、とても惹かれてしまっていた。

ティファは両膝を抱え、そこにトンと額を乗せ目を閉じた。

 

 

エアリスだもん。
好きになっちゃうの、しょうがないもの。

あんなに綺麗な顔立ちなのにそれを微塵たりとも鼻にかけることもなく、気持ちのままに豊かにコロコロ変わる表情。
エアリスが笑うと本当に花がパッと開いたような華やかさと優しさがあって、思わずこちらも笑顔になってしまう。
普通なら言いにくいことでも、エアリスが言うと皆すんなりと受け入れてしまうような、不思議な魅力が彼女にはあった。
清楚な外見とはギャップのある無邪気な性格や、素直になんでも口にするところ。
ティファのこともぐいぐい引っ張ってくれるエアリスといるのは楽しくて、ティファだって彼女のことが大好きだ。

それに比べて、わたしはクラウドのことをなんとなく避けるようになった。
5年前のことを聞かれたり聞かされたりするのが怖いから。
ジクリ、と嫌な不安感が胸に込み上がるけれど今もただただそれから逃げているだけ。

それに、二人が並ぶと無意識に一歩下がって歩く変な癖がついていた。
すぐにエアリスがわたしの腕に腕を絡めてきて、また三人で並んで歩く、なんてことも多かったけれど。
クラウドの隣にわたしが立つことは、もうずっとなかったように思う。

自分から話しかけることも事務的なこと以外なくて、元々無口なクラウド、必然的に二人の会話はほとんどなかった。

今クラウドにとって特別なのは、きっと彼女。

 

「クラウドは、エアリスのことが、好き、なんだよね」

ずっと思っていたこと。
声に出して言ってみると、ツンと鼻の奥が痛くなった。
胸が苦しくなって、ゆっくり息を吐き出すと、それと同時に涙が滲んだ。

 

「探したぞ」

突然背後からクラウドの声がしてティファは飛び上がった。
溢れ出しそうになっていた涙を、瞬きを繰り返して慌てて乾かす。

「ビ、ビックリした・・・!」

ティファはドキマギと振り返った。
今の、聞かれてない、よね・・・?

「みんなもう酒場に入ってるぞ」

クラウドが一人分の隙間を空けて隣に腰を下ろした。

「・・・あ、もうそんな時間か。わざわざ呼びにきてくれたの?」

「ああ、まぁ・・・」

「そっか。ごめんね・・・ありがとう」

「いや」

こちらを見ないクラウドに寂しさを覚え、それを振り払おうと立ち上がろうとしたとき、クラウドが顔を向けた。

「ここで何してたんだ?」

「・・・・・・」

失恋してた。なんて言えるわけがなく、ティファは目を泳がせた。

「えっと、見ての通り海を眺めていただけだよ」

「そうか・・・」

「・・・・・・」

それっきり会話が切れて、二人で押し黙る。
エアリスとだったら、自然と会話が弾むんだろうな。それで、クラウドが笑って・・・
自分が情けなくて、悲しくなる。
せっかくクラウドと二人きりなのに。
もう、皆のいる酒場に行こう、そう思ったとき。

「さっき、泣いていなかったか?」

突然の問いにギクリとする。
まさか気づかれていたなんて。

「え?全然、泣いてなんかいないよ」

驚いたように装うと、真偽を伺うように見つめられる。
不覚にも、夕日を受けて金色に透けるような碧い瞳に胸が鳴った。
その瞳が、スイと逸らされ海に向けられる。

「ならいいんだ」

本当は、泣いていたよ。
あなたのことを想って、泣いていたの。
また鼻の奥がツンとしてきて慌てた。

「・・・何かされたのかと思った」

「え?」

小さな声に、聞き返す。

「あの男に・・・何かされたのかと思った。ティファ、あいつの家にいただろ」

ジョニーのことか、と思い当たる。

「そんな・・・ジョニーはいい人よ!彼女さんだっているし」

「ふん・・・」

小さく鼻を鳴らすとクラウドは拗ねたような、不機嫌そうな顔をした。

「あんまり簡単に男の家に行くな。ティファには自覚が足りないんじゃないか」

その言い草にムッとして反論しようと口を開いたとき。

「心配したんだぞ」

真剣な瞳で見つめられ、言葉を失った。

「・・・・・・」

二人の間に波の音だけがゆったり流れた。

心配、してくれてたんだ。
さっきは気にもしてないように見えたけど。
嬉しくて胸の奥が温かくなった。

ふ、と視線を外したクラウドの頬が少し赤くなっているように見えて、つられて顔が熱くなってきて俯いた。

「ごめん・・・なさい」

うん、と頷くと、クラウドは突然立ち上がった。

「行こう」

「う、うん」

慌てて立ち上がり、少し後ろについて歩くティファ。
ふと振り向いたクラウドは、ティファが隣に来るまで待つと、二人小さく微笑み合うと並んで歩いた。

ティファは前に伸びた二人並んで揺れるシルエットを見つめながら思う。

(まだ泣くのは早かったかな。そう思っていいの・・・・・・?クラウド)

二人の手が、触れ合いそうで触れ合わない距離で揺れていた。

 

 

 

 

 

FIN

 

 

たまらん本編クラティ!!!!
最近、色々なクラティサイト様で7本編の小説を読むのにハマっています。
ああもう、懐かしいこの切なさ!!!と胸をきゅんきゅんさせて涙してます(笑)
そうだよなぁ、この頃、クラウドとエアリスのやりとりにティファと一緒になってヤキモキしてた。
わたしの動かすクラウドはガンガンティファにアタックしていたけど、選択肢が物足りなかった(笑)
もっとハッキリティファに愛を伝えさせてー!って思ってた。
エアリス可愛いもの、素敵だもの。クラウドのティファへの気持ちになんて全然気づかないで、わたしなんて身を引くしかないって勝手に考えてそう。
ティファの性格考えると、何もできなくて辛かったろうな。そんなティファだからこんなにも好きになったんだけど。
想いあってるのに近づけない、あのときの二人を思うと切ない。

だからさ、あのときの切なさを思うと、今こうやってACのあと思う存分想いあって愛し合えてるだろうクラウドとティファをしっかり想像できるのって本当に嬉しいし幸せだと思う。
よかったね、と心から思う。
よかったね、クラウド。よかったね、ティファ。

リメイクで二人の間はどんなんかな。
そりゃ恋愛メインのゲームじゃないのはわかっているけど、どうしても期待してしまうし、クラウドのティファに対する言動や仕草にキュウウン!!!!となるんだろうな。
そして狂ったように絵や小説かきたくなるんだろうなー!楽しみです♪

 


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