Mental growing

キッチン以外の照明を落とした薄暗い店内。
明日のメニューの下ごしらえも終わり、手を洗い終えるとティファはふと時計を見上げた。

0時17分。

そろそろ帰ってくる頃だと思うんだけど。
もう少しここで待っていようかな。それとも先にシャワーを浴びようか。

・・・・・・まだかな、クラウド。

なんとなく、店の玄関に足が向かった。
扉を開け、少しひんやりした空気を心地よく感じながら通りの先に目をやる。

街灯も弱々しく、しんと静まり返った街。
心細くなる情景に、思わず腕を身体に巻きつけた。

(・・・・・・そんなタイミングよく帰ってこないよね)

やっぱりシャワーを浴びよう、そう思ったとき、小さなエンジン音が聞こえた。
ハッと顔をあげ真っ暗な道の先に目をこらすと、だんだんとライトが近づいてきた。
この時間にバイクが通ることはめったにない。期待に胸が高鳴った。
聞き慣れたエンジン音を確認すると思わず頬が緩んだ。
間違いない。

音を落としたフェンリルが目の前でゆっくり止まった。
停車する数メートル前から見えていた驚いた顔のクラウドに、笑みが大きくなる。

「おかえりなさい。遅くまでお疲れさま」
「・・・・・・・・・ずっとここで待っていたのか?」

クラウドの眉間が寄せられた。
期待に反して表情に陰りを見せるクラウドに、ティファの気持ちは一気に沈んだ。
もっと笑ってくれると思ったのに・・・。

「ううん、ちょうど今出てきたところ」

笑みを引っ込めたティファに、「・・・そうか」と小さく呟くと、クラウドはガレージへと向かった。

ティファは店内に戻りながら口を尖らせた。

(何よクラウドったら、迷惑そうな顔して!せっかく外でお出迎えできたのに)

悲しくて、だんだんクラウドに対する怒りさえ湧いてきた。
こんなことなら大人しくシャワーを浴びていればよかった。
プンプンしながら夜食を作っていると、装備を外して身軽になったクラウドが入ってきた。

「はい、どうぞ。わたし、まだシャワー浴びてないの。クラウドがごはん食べてる間に入らせてもらうね」

早口でまくし立て、「ああ」と小さく返事をするクラウドの前を足早に通り過ぎると浴室へ向かった。
いつもより熱めのシャワーを受けながら、ティファはまた口を尖らせていた。

(なんであんな顔したの。何が気に入らなかったの)

エンジン音が聞こえたときのワクワク感。
きっとクラウドは少し驚いて、ただいまと笑ってくれると思ってた。
もう店先で帰りを待つなんてことはしないでいよう。どうせつまらない思いをするだけなんだから。

一日の汚れと一緒に嫌な気分を少しだけ落として、ティファは浴室を出た。
脱衣所にはクラウドが立っていた。

「きゃ!」

驚いてタオルで体を隠したティファだったが、クラウドが悲痛な顔をしていることに気づいた。

「・・・・・・どうしたの、クラウド」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

辛抱強く、待った。
明らかに言いたいことがあるのに黙り込むとき、それはクラウドにとって言いにくい事なのだ。
クラウドのタイミングを待ってあげるしかない。

「・・・・・・・・・いいよ。言って?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・さっき・・・」
「うん」

ティファの落ち着いた顔をチラリと伺い、クラウドは俯いた。

「・・・・・・ちょうど出てきたばかりだったっていうのは本当か?」

ティファは目を瞬いた。 何を気にしてのことだろう?それが先程のクラウドの態度にどう関係してくるのか。

「うん、本当よ。なんとなく外に出たところでちょうどクラウドが帰ってきたの。偶然だよね」

わたしは、その偶然が嬉しかったの。

「そうか・・・。ならいいんだ」

ほんの少しだけ表情を和らげたクラウドは、それだけ言うと脱衣所から出ていった。

もう、本当に言葉が足りないんだから。
わざわざ脱衣所で待ち伏せまでして話したかったことは結局なに?

「クラウド!」

呼び止めると、クラウドは足を止めた。

「ちゃんと話して。何であんな顔したの?わたしはちょうどクラウドが帰ってきて嬉しかったの。なのに・・・迷惑そうな顔されて」
「違うんだ、ティファ」

慌てたようにクラウドが遮る。

「俺は・・・・・・ティファが・・・また俺が・・・・・・・・・」
「・・・・・・?」
「いなくなるんじゃないかと不安になって・・・外で帰りを待ってるのかと思ったんだ・・・」

ティファは息を飲んだ。
こちらは少し浮かれていて、そんなこと思いもしなかった。
クラウドにはそんな風に映っていたなんて。

「知らないだけで、もしかしたらティファは・・・いつもああやって長い時間外で待っていることがあるのかもと考えて・・・・・・苦しくなったんだ」
「クラウド・・・」
「未だに、俺はティファを不安にさせてるんだと思った。でも、違う、んだよな・・・・・・?」

遠慮がちな瞳で見つめてくるクラウド。
ティファは思わず、困ったように笑った。

「・・・うん、違うよ、クラウド」

クラウドを安心させるようにハッキリと答えた。

「不安になったからじゃなくて、クラウドが帰ってくるのが待ち遠しくて、外に出たの」

少し探るような瞳をしていたクラウドも、ティファの様子を見て安心したように微笑んだ。

「うん。わかった」

クラウドは小さく頷くと、そっと脱衣所を出ていった。

あれから随分時間も経ったのに。
臆病なわたしでさえ、穏やかな未来を信じることができるようになったのに。
クラウド自身がまだ引きずっていたのね。
でもそれって、反省している証拠、だよね?

後で、しっかりクラウドのことを抱きしめてあげよう。
あなたがわたしによくしてくれたように「大丈夫だよ」と言って。

 

 

 

 

 

FIN

 

 

 

ACの最後、微笑むティファを見て「なんて大きいの・・・!」(そしてなんて可愛いのフオォ)と思いました。
無責任な家出クラウドを、全部わかってる、と言わんばかりの微笑みで迎え入れて。

ティファ、守るべき子供達がいることも大きいんだと思うけど、本編の頃のティファよりずっとずっと強くなってると思うんです。
母として、女として。
本編のティファのイメージのままだと、AC後も不安に駆られてクラウドを信じられなかったり、気弱になったり自虐的になったりしそうだけど、
ACやACCのティファの言動、表情を見てるとそんな感じがしないんですよね。
クラウドの言動を伺ってビクビクする、なんてそんな様子全然ない。励ましたり、叱ったり。
言いたいことちゃんと言って、クラウドと真っ向から向かい合おうとしてる。
夜の寝室のシーンなんてまさにそう。(よく考えたらこのシチュエーションかなり大サービス(笑)ありがとう■e様!)
言いたいことを言わないで後悔した経験がやっと活かせるくらい、ティファが成長したってことなんだと思います。
そうじゃなきゃあんな相変わらずめんどくさいクラウドとこれからやっていけないものね(笑)

 

 

 

 

↓管理人のヤル気が出ます↓