burn with jealousy (前編)

いつも窓から、ティファにくっついてまわる同年代の村の少年達を見ていた。
金魚のフンのようにティファの後を追いかけご機嫌をとっていて、馬鹿みたいだと思っていた。
混ざりたいとは思わなかった。
だが、軽蔑することで、常にティファの近くで彼女の笑顔を見ていられるあいつらへの激しい嫉妬心に気づかないようにしていたのだと、今は思う。

そうだ。
あれ以来、意識する機会もなかったが、俺は嫉妬深い。

 

 

 

ティファと二人きりの一週間も、残り4日となってしまった。
少しでも二人きりの時間を確保したくて本日も猛スピードで仕事を片づけ、セブンスヘブンの営業時間内に帰宅をした。
ゴーグルを外しながら店のドアを開けると、カウンターの中で客と笑顔で話していたティファが顔をあげた。

「あ、クラウド。おかえりなさい」

いつもと同じ笑顔で迎えてくれるティファ。
その前には、一人の男が座っていた。
その男は、こちらを振り向いて軽く会釈をしてきた。
短めの髪にはっきりとした顔立ちが映える、はっとする程、いい男だった。

「・・・・・・」

とっさに無視したい衝動に駆られるが、俺も大人だ。
こちらもごく小さな会釈を返すと、黙って自室への階段に向かった。

「あ・・・クラウド。夕飯は?」

ただいまも言わない俺に、慌ててティファが声をかける。

「いらない」

自分でも呆れるほど、子供染みていると思う。
が、とっさにそう返してしまった。腹は減っているというのに。
後ろで戸惑うティファの気配を感じながら、そのまま階段を上がった。

自室へ入ると、装備を外し床に投げ捨てた。

「・・・・・・・・・」

馬鹿馬鹿しい。
ティファが客と笑顔で話をするなんていつもの事ではないか。
商売柄、必要なことだ。
その事でティファを責めるなんてお門違いも甚だしいとわかっている。
ただ、今回は相手が・・・。
俺は、人の容姿に無頓着なほうだと思う。
特に同性に対して、誰がダメで誰が良い顔かなんて考えもしない。
そんな俺でも、先ほどティファの前に座っていた奴は、いい男だと瞬時に感じた。
男らしく爽やかで、ずいぶんと顔立ちの整った男だった。
身長だって俺よりだいぶ高そうだ。
ティファだって女だ。ああいった男を前にして何も感じないなんてことがあるだろうか。
さっきの笑顔だって、いつもの営業スマイルとは違うような気さえしてきた。
・・・・・・俺の考え過ぎかな。

だが、ティファの気を引きたがる客を見る度に感じる感情とはまた違った、嫌なものが胸に残って離れない。

「はぁ・・・」

情けない。
ティファが笑顔で会話をしていた相手が稀にみる色男なだけで、ここまで動揺するなんて。
ティファを信じていないわけではない。
俺はただ、自分に自信がないだけなんだ。

 

 

 

「さっきの・・・・・・もしかして旦那さん?」

階下から、男の声が聞こえてきた。
意外と階下の音は上によく通るものだ。更に、俺は耳がいい。
思わず聞き耳を立てた。

「ええと・・・ううん、違うよ」

「・・・そっか」

男の、わずかに安堵が滲む声にカチンとくる。
ティファだって、何だ。
客相手にタメ口なんて滅多に使わないくせに。
仲良くなった同年代の女性客とはタメ口で話しているのを見かけたことはあるが、男では初めてだ。
それとも、俺が知らないだけで仲良くなった男は他にもたくさんいるのか?

「ケンカでも・・・してるのか?」

「え?」

「さっき・・・。いや、いいんだ、ごめん。ちょっと気になっちゃってな」

「ああ、ううん。してない・・・はずだけど。彼、ただ疲れてるのかも。それともわたし知らぬ間に何かしちゃったかな・・・」

「ふぅん・・・こういうこと、よくあるの?」

「うーん、わりとある・・・・・・かも」

「そっか。たぶん、ちゃんと気が済むまで話し合った方がいいよ。俺も、前の彼女とはそんなことが多くて結局ダメになったから」

「・・・そうなの?」

「ああ、結構長く付き合ったんだけど。ちなみに俺もティファさんの立場。あまり多く語ってくれる人じゃなかったから、気持ちがわからなくて」

「そっか・・・。クラウドも確かにそういう所あるけど、だんだん話してくれるようになってきてると思うの。後でよく話し合ってみるね」

「うん、ならよかった。クラウドさんていうんだ。ずいぶんイケメンだ。美男美女で、お似合いだよ」

「やだ、もう。ふふ」

「さて・・・俺そろそろ。ごちそうさま。これお勘定」

「うん、ありがとう」

「じゃあ・・・・・・また、な」

「うん、またね。気をつけて」

俺は身じろぎもせず、会話を聞いていた。
・・・ずいぶんと仲がいいじゃないか。
お互いプライベートな話までして。
あんな風に言っているが、あいつはティファに気がある。
直感的にそう感じる。
ティファは、気づいていないのか?

 

 

胸をムカムカさせながら、一緒に入ると約束した風呂も一人で先に済ませた。
ティファの店じまい作業が終わるのも待たずに、自室の電気を消しベッドに潜り込む。
もちろん、ティファが困惑するのをわかった上でだ。
こんなあからさまに不貞腐れて、みっともないのはわかっている。
だが、どうにも腹の虫がおさまらない。
楽しそうに笑うティファの顔と、先ほどの親しげな会話が頭から離れない。

ティファは、あいつの事をどう思っているんだ。
本当に他の客と同じように見ているのか?
できる事ならそう問いただしたい。
でも、もし少しでも気になっていると言われたら・・・・・・。
考えたくもない。

 

 

 

コンコン。

「クラウド?」

閉店時間の少し前、ティファの声がした。

「・・・・・・・・・」

返事は返さない。

「クラウド・・・寝てるの?」

「・・・・・・・・・」

扉の向こうで小さなため息が聞こえた。

「クラウド・・・?」

この時間に俺が寝るわけがないことをわかっているティファは、辛抱強く声をかけてくる。
このまま無視し続けるのも、どうかと思う。
ティファは何も悪いことをしていないことは、頭ではわかっているんだ。
黙って、扉を開けた。

「・・・・・・」

「クラウド・・・」

「・・・・・・何だ?」

「何だ、じゃないでしょ?クラウドの方こそ、一体どうしたの?」

「別に何も。疲れただけだ」

表情のない俺に、ティファが眉を寄せた。

「・・・・・・絶対うそ。クラウド、怒ってるもの。わたし何かした?」

「・・・・・・いや、何も」

「ちゃんと言ってくれなきゃわからないよ・・・」

なるほど。
さっきあいつにアドバイスされた通りに話し合いに来たんだな。
ますます話す気になれないじゃないか。

「ごめん、本当に疲れてるだけだ。もう寝るよ」

「・・・・・・・・・・・・そう」

ティファは悲しげに目を伏せて黙り込んだ。

「じゃあな・・・・・・おやすみ」

「・・・・・・夕飯は本当にいらないの?一応作っておいたんだけど・・・」

「・・・・・・・・・」

せっかく作ってくれたのにそれすら食べないのは、さすがにやり過ぎだよな。
今の状況さえ十分自分勝手なのはわかっている。

「・・・・・・食べるよ。ありがとう」

「うん!じゃあ、今用意するね」

呆れられてもしょうがない俺の行動に怒りもせず・・・ティファは、優しいな。
俺もそろそろ機嫌を直さなければ。

 

 

 

カウンターに座ると、すぐに温かい料理が出てきた。

「いただきます」

「どうぞ」

ティファはカウンターの中から俺の様子を伺っていた。

「美味しい?」

「うん、うまい。初めて作る料理だな?」

「よかった!そうなの。今日、クラウドが帰ってきたときにカウンターに座ってた人覚えてる?」

俺はピクリと動きを止めた。

「・・・・・・・・・ああ」

「あの人、同業者でね。このレシピを教えてくれたの。わたしも味見してみたけど、美味しいよね」

「・・・・・・・・・」

一気に、食欲がなくなった。
しかしここで食べるのをやめるのも何だ。
残りは機械的に口に運んだ。
黙々と食べる俺を見て、ティファはそれ程美味しいのかと勘違いしたのか、満足気だった。

「これ、うちのメニューにも入れたいけど・・・そういうわけにはいかないよね」

「・・・・・・・・・ずいぶん、仲が良さそうだったな」

「え?ああ、うん、わたしと同い年らしくて。何度か来てくれてるんだけど、同業者だし、なんだか話しやすくて」

「・・・・・・ふぅん、よかったな。ごちそうさま」

空になった皿をカウンターに置くと立ち上がった。

「じゃあ・・・・・・おやすみ」

「あ・・・・・・うん・・・。おやすみなさい・・・・・・」

俺は、俯くティファに背を向けた。

 

 

あいつの話をするときの、あのティファの顔。
あんなに楽しそうな顔をして。
もう、好きなんじゃないのか?
そうだよな、あんなに顔がいいんだ。爽やかで、感じもいい。
女なら気にならないわけないよな。
でも、ティファはそういう女じゃないと思っていたのに。
結局、俺たちの関係はその程度だったのか?

俺は、自分に自信があるわけじゃないのに、ティファはずっと俺のそばに居てくれるものだと思っていた。
今になって気づく、それが単なる傲りであったこと。
根拠のない、思い上がり。
だから、こんな些細なことで不安に崩れそうになるんだ。
そして、こうやってティファを拒絶することで逃げている。
情けない。
心底、ガキだと我ながら思う。
わかっている。
でも・・・激しい嫉妬に煮えくりかえるような胸の内を抑えることができなかった。

 

 

 

 

 

 

セブンスヘブンの閉店後、仕事から帰宅した。
closeの札の掛かる扉を開けると、カウンターの中であの男にティファが抱かれていた。
暗い店内に、カウンターのライトに汗で光る肌を照らされた二人が浮かび上がる。
ティファはこちらに背を向け、裸の腰までが見えていた。

「あ、あん、あ、あ・・・」

男に揺さぶられて動くティファの髪と体。

「好きだ・・・ティファさん」

「・・・・・・ティファって、呼んで・・・」

腕を男の首に絡めるティファ。

「ティファ・・・・・・」

激しく揺れながらキスをする二人。
ティファは、いつも俺が抱くときと同じ声をあげていた。
俺だけが聞けると思っていた声を、俺だけが口づけできると思っていた肌を、あいつに捧げていた。

「い・・・やっ、また・・・またいっちゃう・・・・・・」

「感じやすいんだな・・・可愛い、ティファ・・・」

ティファがこちらに顔が見えるほど大きく仰け反った。
頬を真っ赤に染めた恍惚の表情で甘くか細い悲鳴をあげるのを、俺は茫然と立ち尽くして、ただただ見ていた。

 

 

 


暗闇の中、瞳を開いた。
ドクドクと心臓が鳴っていた。
怒りで沸騰しそうな頭で、今のが夢であったと認識する。
カラカラに渇いた口の中に、なんとか唾を広げ、飲み込む。
夢で、よかった・・・。
だがあの思い出したくもない映像が頭から離れない。
いつ現実になるとも限らないんだ。
不安と焦燥感に押し潰されそうだった。

・・・ティファは、俺のものだ。
確かめたい。

俺は衝動的に、ティファの部屋へ向かった。

 

 

 

 

 

後編へ続く

 

 

 

「嫉妬モノ」のリクエストが多かったので、こちらを書かせていただきました!
リクエストしていただい方々、ありがとうございました☆
ベタな展開だけど、嫉妬モノはわたしも一度は書いてみたいと思ってたので、よかったです♪
もっと相手の男性を何度も登場させてクラウドを追い詰める(笑)長編にしたかったんですけど
他にも消化したいリクエストがいくつもあるので前編後編におさまるようにしました。

クラウドの嫉妬はタチが悪そうです。うん、絶対そう。
根が暗い(笑)から、考えが暴走し始めると凄そう。まさにこんな感じに。
ちなみに、どうでも良いけど相手の男性のイメージはやったことないけどFF11のデフォルト?のヒュームみたいな感じ→
こんなイケメンが客に現れたらクラウド嫌だろうなーと思い。うふふ。

「Sぽいエッチ」っというリクエストもいただいたので、後編はそんな感じになる予定です。
苦手な方はご注意くださいネ。
後編は裏ページにて。

 


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