君といること
一年を通し寒冷な気候のニブルヘイム。
空の色はいつも灰色で、青い空が覗くことはあっても冷たい風は変わらなかった。
冴えない空色のせいで村にはどこか寂しげな空気が漂う。
村を囲う山々には緑が少なくゴツゴツした岩肌が曝け出され、寒々しさに拍車をかけていた。
しかし、幼い頃から馴染んだその情景は嫌いではなかった。
たぶんそれは、そんなニブルヘイムに彩りを与えてくれていた人がいたから。
笑顔が眩しくて、彼女の周りは生き生きとした色に溢れている、そんな錯覚を起こさせた。
自宅の玄関扉を開ける前に彼女の部屋を見上げるのはクセになっていた。
角度の問題で姿が見えたことはほとんどなかったけれど、ついつい見上げていたのを思い出す。
彼女と話したい。
一体何を話したらいいかなんてわからなかったけれど。
俺に気づいて。
俺を見て。
幼ない胸を苦しくさせ、俺とティファの間に何も起こらない、ただただ過ぎていく日々に漠然と焦りを感じていた。
それでも俺は、何もできずにいつも遠くから見ているだけだった。
「ティファ・・・・・・」
ずっとそばにいたのに。
霧が晴れて姿を現したように、俺の目の前にいるティファ。
「やっとまた・・・・・・会えたな・・・・・・」
「バカッ!! みんなに心配かけて!!」
瞳に涙をいっぱい浮かべ、眉尻を下げながら叱ってくれる。
涙に濡れたティファの瞳は、とても綺麗だった。
ティファへ抱いていた想いが、張っていた膜が拭われたように鮮やかな彩りを取り戻す。
そうだ。
はっきりと心に蘇る。
俺は、ティファのことが、ずっとずっと前から好きだった。
上から覗き込んでくるティファに意識が戻され、ハッと見つめ返す。
「どうしたの?ぼんやりして」
「・・・・・・うん。色々思い出してた」
「どんなこと?」
「・・・・・・色々だ」
ティファに膝枕をしてもらいながら、ティファのことを考えていたなんて気恥ずかしくて言えずに言葉を濁した。
「そう」
俺の髪をゆっくりと指で梳きながらのんびり応えるティファ。
顔にかかる髪を掻き上げるように、額からゆっくり滑らされる手のひらの心地よさに目を閉じた。
この上なく穏やかに流れる時間に、自然と頬が緩む。
「なぁに、ニヤニヤしちゃって」
クスクス笑うティファの声が聞こえた。
「なんでもない」
俺は瞳を閉じたまま答えた。
ゆったりと、また思い出が動き出す。
(色々、あったな・・・)
物心ついた頃には近くにティファがいて、気づいたときには恋をしていた。
それから現在に至るまで、語り尽くせないくらいティファとは色々あった。
旅の間も、終わってからも。
苦い思い出も、幸せなことも。
そしてやっと辿り着いた、この穏やかな時間。
俺の人生、ティファなくして語れない。
ティファは俺の人生にたくさんの彩りを与えてくれた。
そして、きっとこれからも。
ティファの代わりになる人なんていない。
ティファのことが、とても愛しい。
「なぁ・・・キスしてくれ」
心の要求のままを口にする。
しばらく待っても反応がないからチラリと片目を開けてみると、案の定、頬を染めて困ったようにこちらを見下ろしているティファ。
「どうした?誕生日だぞ」
「・・・もう」
観念したティファが屈んでくるのを確認すると、ティファの頭を引き寄せながら瞳を閉じ、唇を合わせた。
ゆっくりと唇が離れると、ティファの唇が綺麗な弧を描いた。
「お誕生日おめでとう、クラウド」
「ありがとう」
ティファの優しい声音に、胸が幸福感で満たされる。
幸せなため息を吐きながら、また瞳を閉じた。
ティファの柔らかで温かな太腿の感触と、愛情が伝わってくる動きを続ける優しい手のひら。
だんだん、眠くなってきた。
このまま少し寝てしまおうかな・・・。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「ねぇ?クラウド、そろそろケーキを焼きたいんだけど・・・」
「・・・・・・うん?」
「夕飯の用意もあるし、間に合わなくなっちゃう」
「・・・ケーキか・・・手伝うから、もう少しだけ・・・・・・」
「自分の誕生日ケーキなのに?」
「・・・うん・・・」
耳をくすぐるティファのクスクス笑う声。
「じゃあ、もう少しだけね」
FIN
ティファといることの幸せにどっぷり浸っていればいいよクラウドなんて(愛)
お誕生日おめでとう☆