雨の日の宿で

 

ドォォ…ドォォ…


立体感のある低音に目が覚めた。

部屋が薄暗い。今、何時だ?

枕元に置いた携帯を手探りで探し出し時刻を見ると、5時52分。アラームが鳴るより10分ほど早く目が覚めたようだ。
その原因となった窓の外の様子をカーテンを開け確かめると、思った通り波打つような激しい雨が窓ガラスを叩きつけていた。街路樹が強風に吹き飛ばされそうになっているのが見える。

やれやれ。この雨の中進むのは無理そうだ。
今日はしばらくこの宿で待機だな。

 


集合時間にロビーに行くと、いつものメンバーが揃っていた。

「おはよう、クラウド」

エアリスが歩み寄る。

「外、すごい雨だね。今日どうする?」

「ああ。天気が回復するまでしばらく待機だ」

「うーん。今、宿のおじさんに聞いたんだけど、予報じゃ明日の朝まで大荒れだって」

「そうなのか」

「うん。だから、今日は思い切ってお休みの日にしない?毎日頑張ってるし、たまには息抜きしないと。ね?」

俺は腕を組み考えた。

「そうだな…。まぁ、どちらにしろこの雨じゃ動けそうもない」

幸いにも今日の宿は大きく、食堂やショップ、大浴場やバーなど時間を潰せる施設がいくつもある。

「よし。今日はゆっくり休んで出発は明日にしよう。ティファ、連泊の手続き頼んでいいか?」

「わかった。まかせて」

ティファが嬉しそうに頷く。
そうだよな。みんなたまには休みたいよな。ティファの笑顔を見て少し反省する。

「やった~!ねね、ティファ、さっきエステのお店あったよ。あとで行ってみない?」

「ほんと?行く行く!」

仲良く腕を組んでさっさと消えて行く女子二人。

「やったぜー!久しぶりにのんびりさせてもらうぜ~!」

何が楽しみなのかバレットもウキウキと姿を消した。残るはレッド13のみだが…
視線を感じたのかチラリとこちらを見ると立ち上がった。

「私はあまり人目につかぬ方がいいだろうな。部屋で昼寝でもして過ごそう」

ゆっくり歩いていくレッド13を見送りながら、腰に手を当てた。
さて。
俺は何をしようかな。正直暇を持て余しそうだ。

 

 

部屋に戻るも思った通りヒマを持て余し、アイテム屋でも見ようと思い立ちドアを開けた。宿の中にショップがいくつか並んだ通りがあったはずだ。
歩いていると、ティファが一人で店に入って行くのが見えた。

(何の店だ?)

看板を見上げると、ジュエリーの文字。
後を追って店に入るとショーケースを覗き込むティファがいた。

「ティファ」

驚いて振り向くティファ。

「クラウド。びっくりした」

「何見てるんだ?」

「えっと…ネックレス」

「欲しいのか?」

「ううん!エステ、空きが一人分しかなくてエアリスが入ることになったからヒマになっちゃって。なんとなく見てるだけ」

「なんだ、ジャンケンで負けたのか?」

クスクス笑うティファ。

「ううん。エアリスは譲ってくれようとしたんだけど、わたしなんかよりエアリスが受けた方がいい気がして」

「なんでだ?」

わけがわからず聞いた。

「え?ほら、どうせわたしはすり傷とアザだらけだし。ちょっと綺麗にしてもらったって、ね」

「……」

まったく。
ティファはなんでこういう発想になるんだ。あんなに言い寄ってくる男がいるのに気づかないなんて。
摩訶不思議だ。

ティファは綺麗だよ。
エステなんか受けなくても、十分。
喉まで出ているのに口から出せず、黙り込んだ。

「…ええと。クラウドは何買いに来たの?」

髪を耳にかけながらティファが俯く。

「買ってやる」

「え?」

「ネックレス。欲しいやつどれだ?」

「……」

ティファが目を瞬いた。

「きっと似合う。どれでも」

一瞬言葉を失ったティファが、嬉しそうに目を細めた。

「…ありがとう、クラウド。でもね、本当に今はいらないの。闘うとき邪魔になっちゃうし、きっと切れてすぐになくなっちゃう」

「そうか…」

横に並んでショーケースを覗き込む。

「ティファはどういうのが好きなんだ?」

「え?ええと…こういうの…かな」

指差した先を見ると、細く繊細なチェーンにティファのピアスに似た雫型の小さな光る石がついていた。
うん、ティファに似合いそうだ。

「よし。戦いが終わったら、俺が買ってやる」

「本当?」

「ああ。約束する」

「……」

ティファの瞳が揺れたように見えた。

「ティファ?」

「…うん、約束ね?」

「ああ」

ティファの微笑みに思わず見惚れながら、頷く。
しばし、ティファから目が離せなかった。

…ティファは、綺麗だ。
今度はごまかさずに伝えてやれたらいいのに。

「ティファ……」

「ん?」

「おーいたいた!お二人さん、エアリスが卓球しようって呼んでるぜ!」

宝石店に似つかわしくない声が店に入り込んできた。
俺とティファは同時にバレットを見ながら首を傾げた。

「…タッキュウ…?」

 

 

 

 

 

「行くよー!?」

「よし、来い!」

美女二人が卓球台を挟んで向かい合う。

「それっ」

エアリスのサーブ。

「やっ!」

ティファが打ち返した球は目に見えぬ速さでエアリスの髪をなびかせながら後方へ飛んで行った。

「……あれ?ボールどこ?」

「ああっ、ごめんエアリス!こういう勝負事になるとつい…」

見えてさえいなかったエアリスの反応に笑いを噛み殺した。

「え…?さっき教えたルール通り、ちゃんとワンバウンド入れた?」

「うん、入れたよ」

「あーだめ!ティファに勝てる気しない。もう、バレットに勝ったクラウドとティファで決勝戦して」

「ご、ごめんね」

腕っぷしの強さを謝るティファ。

「はい、クラウド」

エアリスからラケットが渡された。

「クラウドでもティファに勝てるかなぁ?」

「勝つに決まってる」

即答すると、おもむろにティファの向かいに立つ。

「クラウド、本当にわたしに勝てると思ってるの?」

挑発的な態度のティファにニヤリと笑ってみせた。

「あたりまえだ」

「ふぅん。じゃあ、わたしが勝ったらなんでも言うこと聞く?」

「ああ、なんでもするさ」

「ずいぶん自信あるのね」

二人同時に腰を落とした。

「行くよ」

「来い」

エアリスとバレットは必要以上に離れた場所で見守っている。

「やっ!」
「は!」
「それ!」
「はっ!」
「はぁ!」
「くっ!」

短い掛け声がものすごいスピードで繰り返され、ラケットにボールが当たる度に閃光が走るようだった。
まわりの卓球を楽しむ人々は、尋常じゃない二人の試合に手を止め唖然と眺めている。
そんなことには気づかず互角の戦いを繰り広げる二人。

「やべえな、あいつら」

「うん」

バレットの呟きにエアリスが頷いた。

 

 

結局、常日頃大剣を振り回しているクラウドより格闘術で細やかな動きをしているティファの方が身のこなしが勝り、わずかな差でティファの勝利に終わった。

「…くそ」

卓球台に肘を付き悔しがるクラウド。

「はぁ、はぁ…。さすがだね、クラウド」

「…ティファもな」

「二人とも、すごかったね!」

汗だくになった二人に駆け寄るエアリス。

「クラウド、ティファの言うことなんでもするんでしょ?どうするの?ティファ」

ワクワク目を輝かせるエアリス。

ティファは顎に指を当て思案した。

「んー。どうしようかなぁ。実は何も考えてなかった。エアリス、何かいい案ある?」

「そうねぇ。クラウドを女装させる~とかいいけど、もう見ちゃったし」

「うーん」

「うーん」

「……」

やめてくれ。二人で考えるなんて悪い予感しかしない。

「おぅ、これなんてどうだ!?尻字!」

「黙れバレット」

勝手に最悪な提案をするバレットを鋭く睨みつけた。

「ぷぷ!クラウドが…尻字!」

「想像しただけでおかしい…!」

女子二人は口元を押さえて震えている。

「やめろ。もっとまともなのにしてくれ」

「うーん」

「うーん…」

「おー後は勝手にやってくれ。俺ぁ汗かいたし大浴場に行ってくるぜ」

バレットがドカドカと卓球部屋から出て行く。

「あ、いいね、大浴場。わたしたちも行こう」

ティファがエアリスを誘う。

「いいね!あ、じゃあクラウドにわたしたちの背中、流してもらおっか?」

「えっ。こっ…混浴なのか?」

「嘘に決まってるでしょ」

舌を出すとエアリスはティファに腕を絡めて二人は出て行った。

「クラウドってさ…結構…」

「うんうん…」

二人がコソコソ話す声が遠ざかっていく。

「まったく…。なんなんだ」

 

 

 

 

 

夜。

いつもより疲労が少ないせいか眠れぬままベッドに寝転び、窓の外の激しい雨風の音を聞いていた。この様子じゃ明日もどうなることか。

そういえば、罰ゲームでティファのいうことを聞くっていうやつ。結局何もないままだったな。
別にそんなものなくても、ティファの頼みならなんだって聞いてやるんだけど、な。

 

――コンコン。

 

聞き逃してしまいそうなほど、小さなノック音。

気づかれなければそれでいいと伝わるようなその音に、ティファだと確信した。
飛び起きてドアを開けると、思った通りティファが立っていた。

手をうしろに組んで控えめな視線。わかっていたのにその佇まいに心臓がドキリと跳ねた。

「ごめんね、起きてた?」

「ああ。どうした、ティファ」

「…あの。なんだか、眠れないの」

「……」

可愛くて、言葉に詰まる。

「あ、ああ。わかるよ。俺もだ」

「ほんと?」

「ああ」

「よかった。エアリスは寝ちゃったし、一人でバーにでも行こうかなと思ったんだけど、さっきの権利思い出して」

「で、俺を誘いに来たのか?」

「ふふ、そう。一杯付き合ってもらっちゃおうかな。ダメ?」

「そんなのでいいのか」

「うん」

「…お安い御用だ」

むしろ、ティファと二人きりで飲みに行くなんて普通にご褒美じゃないのか?

 

 

NEXT

 

 

FF7リメイクパワーすごい。2年ぶりに書けた…。出来はともかく。
FF7リメイクのクラティやばいです。妄想の中のクラウドが出てきてくれたみたいに、ティファに愛情注いでる感じ。
まさかリメイクのしかも序盤でティファへの気持ちを感じ取らせてくれるなんて、本当に本当に幸せで涙出そう。
クラウドらしい、かっこいいクラウドと、ティファらしい、可愛いティファ。二人が動いて会話してちょいちょいイチャついてるのを見てるだけで夢みたいやでマジ。
ありがとうスクエニ。ありがとう野島さん野村さん。感謝や…!感謝しかねぇです…!
まだクリアしてないし、続編でクラウドとティファとエアリスの関係がどんな風になっていくのかわからないけど、期待していていいんじゃないかなって思ってる。
どうか幸せな結末を。

リメイクやったらこんな風にFF7本編のお話書きたくなったけどやっぱり思い切りイチャつけるAC後クラティも書きたくてたまらない。いやー予想以上のリメイクパワー。
寝る時間削って頑張るゾ。

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